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加齢に伴う膝の痛み
若い頃に日常生活で普通にできていたことが今ではできなくない、あるいはできる範囲が狭まっている、そういうふうに感じる方は多いと思います。身体機能は10~20代をピークにそれ以降は加齢と共に段々と低下していきます。同時に重力環境下で暮らしている以上、関節の変形も起こりやすくなります。特に腰椎の関節や膝関節は荷重関節といい、体重がかかり、かつ可動性を有しているため負担が大きく、比較的若い年代から変性しやすい関節でもあります。個人差にもよりますが膝関節は早い人で40代から変形が始まってきます。しかし2足起立及び歩行を行う人間において、関節の変形は誰もが起こるものであり、生理的現象でもあります。
膝関節は大腿骨と脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(お皿)で構成しています。大腿骨と脛骨それぞれの関節部分は関節軟骨で覆われ、その間には半月板という軟骨組織があります。関節軟骨や半月板は地面から伝わる衝撃を吸収するクッションの役割を担ったり、関節の動きを滑らかにするはたらきがあります。その周りには大腿骨や脛骨、膝蓋骨をつなぐ靭帯(内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯など)があり、関節が過剰に動きすぎないように膝関節の動きを制動しています。
変形性膝関節症は関節軟骨や半月板がすり減ったために生じる膝の痛みというように解釈されることが多いですが、変形に伴う痛みの程度もそれぞれで、関節軟骨や半月板が薄くなっているからといって必ずしも痛みが生じるとは限りません。関節の変形があるのにもかかわらず痛みがない人や、一方で関節の変形が軽度でも痛みが強くあらわれることもあり、関節の変形と痛みの程度は一致しないことも多いです。
膝の痛みを助長している原因
関節軟骨や半月板がすり減ることで、骨がむき出しになり神経を刺激して痛みが生じる、衝撃吸収ができないため膝への負担が大きくなり痛みがでるということはもちろんあると思います。しかし膝の痛みと変形(軟骨組織の摩耗による)の程度は必ずしも一致していないこともあり、膝の痛みを引き起こす、あるいは痛みを増強している原因は他にもあると考えられます。
姿勢による膝への影響
加齢の影響は膝だけではなく、背骨や筋力にもあらわれてきます。特に腰椎の椎間板(椎骨の間にある軟骨組織)は年とともにつぶれていきやすく、同時にお尻や腰の筋肉も衰えていきます。その結果、腰は段々と後ろに曲がり、骨盤は後ろに傾き(後傾)、上体は全体として丸まった姿勢になります。
理想の姿勢というのは、横からみて下肢の上に真っ直ぐ上体がのっているような状態が良く、力学的な観点からも負担が一番少ないといわれています。しかし上体が丸まった状態というのは下肢に対して上体が後ろにもたれかかっている形になります。膝関節から重心が遠くなるため、この状態は膝の不安定性を招き、その結果痛みが生じやすくなります。猫背の姿勢をとることが多い若い年代でも、このような理由で膝の痛みを引き起こすことがあります。
体重による影響
膝関節は荷重関節であり、体重による影響が大きい関節です。普段から何気なく歩いたり、階段を利用したりして移動していますが、その時膝には体重以上の負荷がかかっています。歩行時には体重の2~3倍、階段昇降では体重の5倍(降りるときの方が負荷が大きい)、走るとなると体重の7倍以上の負荷が膝関節にかかっています。体重が1㎏増えると、膝関節には少なくとも2㎏以上の負荷が加わることになります。負荷が大きくなることは膝の痛みを引き起しやすくなるだけではなく、膝関節の変性を早めることにもつながります。膝の痛みがつよいのに運動不足だからといって、無理に歩いたり階段を使って運動しようとしたりして、かえって痛みが強くなってしまった、というお話をよく耳にします。体を動かすことはいいことなんですが、痛みが強いのに運動を無理に行うことで痛みはさらに悪化し、変形も進行してしまいます。
膝関節組織による影響
膝関節の組織には関節軟骨や半月板、靭帯の他に組織同士の摩擦防ぐ袋状の関節包や、関節運動を円滑にする膝蓋下脂肪体があり、これらに炎症や癒着が生じると痛みがあらわれます。特に膝関節を曲げた際、膝関節前面に強い痛みを生じます。関節包や膝蓋下脂肪体の状態を良くすることで膝の痛みが軽くなることも多いです。
膝関節可動性の低下による影響
膝関節の可動性が少なくなると膝関節の一定の部分にだけ負荷が加わり続けるため、その部分に痛みが生じやすくなります。関節の動きは単に曲げたり、伸ばしたりというような動きだけではなく屈伸運動に伴い軽度回旋しています。膝を痛める方のなかには膝の回旋不足が原因で起こることもあります。
胸郭(肋骨で覆われている部分)の回旋可動域低下による影響
歩行時、足の動きに伴い胸郭は前後への回旋運動をしています。この回旋運動があることで前方への推進力が得られ効率的な歩行を可能としているわけですが、胸郭の可動性低下、特に胸郭の回旋不足があると腰や膝関節で代償されます。その分、膝関節には回旋ストレス(ねじれるような力)が増大しますので、回旋ストレスの蓄積により膝関節の痛みが強くなります。変形性膝関節症を抱える方のなかには胸郭の可動性が低下が原因で膝に痛みを引き起こしているケースもみられます。
その他にも足部や足関節のアライメント、脛骨の異常捻転、膝関節周囲の筋筋膜の緊張や癒着、骨盤のアライメントなども痛みの原因、痛みが増大する原因になります。
変形性膝関節症の症状に対する治療
膝関節は外側部分と内側部分で荷重を分配していますが、もともと膝関節内側の方が荷重がかかりやすい構造になっています。それに加え、姿勢、体重、脊柱や骨盤のアライメント不良、関節の可動域制限、足部の機能不全など様々な要因が存在することで膝関節内側への負荷はさらに増大します。患部のみを治療して症状が軽くなることもありますが、膝関節を力学的な視点で捉えると、膝関節の変形に影響を及ぼす原因が全身にもあり、その原因を一つ一つ取り除くことで膝の痛みをとることもできます(膝の変形の程度にもよる)。治療としては膝関節内側にかかりすぎた荷重を外側部分に分散させ、異常な力学的環境を改善させるために、まず身体機能の評価を行い、その結果に基づいて鍼灸治療、手技や運動療法、テーピングなどを用いて全身にアプローチしていきます。膝の痛みでお悩みの方はお気軽にご相談ください。